イタリアにいる間に,日経新聞の経済教室で,一橋大学の川口大司さんと「解雇規制,『試用』中は緩和を」を寄稿しました。ちょうどイタリアでも解雇規制の緩和が政治的な論争になっているところで,一見したら重なり合っているようですが,私たちの主張はとてもマイルドで,イタリアのような解雇規制の撤廃か否かというような激しい議論ではなく,解雇規制の価値は認めたうえで,労働市場をとりまく環境の変化に応じた微修正として,試用期間中の解雇規制を外すべきではないか,という主張です。3カ月というのは一例であり,6カ月くらいがほんとうは妥当かもしれませんし,論者によっては1年,あるいは2年(ここが上限でしょうが)という主張もあるでしょう。大事なことは,企業にとっての採用のインセンティブを与えることにより,閉鎖的な労働市場に隙間を与えて風通しを少しでもよくすることであり,これは労働者にもプラスになるという点です。このことは,これまでもいろんなところで書いており,私個人の主張は,『雇用社会の25の疑問ー労働法再入門ー(第2版)』(弘文堂),『雇用はなぜ壊れたのかー会社の論理vs.労働者の論理』(ちくま新書)を参照してください。
さらに今回は,このテーマを含めて,労働法制全体を,法と経済の視点から書いた本,川口さんと『法と経済で読みとく雇用の世界ー働くことの不安と楽しみ』(有斐閣)を出します。すでに,このブログでも何度か予告していますが,いよいよ刊行時期が近づいてきました。日経新聞の寄稿内容は,この本の成果の一部ですが,たまたま良いタイミングで掲載されたと思います。私たちのアプローチは,日本の雇用システムには,それなりの経済的合理性があり,法制度もそれに合わせて展開され整備されているはずであるが,それは一定の経済状況というか外的環境の下で合理性をもつ法制度であり,かつまた経済的合理性も同様であったのであり,外的環境が変化すれば,経済的合理性も変わり,法制度もそれに合わせて変わっていなければならないというものです。現状分析とあるべき政策論・立法論の両方をやっているのが,本書の特徴です。川口さんは実証分析のプロで,雇用社会の現実を非常にシャープに分析してくれています。私はこれに法的な制度説明をかぶせていっただけという感じですが,解雇のところの検討は,結局,試用期間の話に行き着き,二人の主張が最も重なっている論点の一つとなっています。これ以外のテーマでも,雇用の世界を,経済学の分析と労働法学の分析を融合させて描いており,経済学のこれまでの本とも,また法学のこれまでの本とも違うものになっていることだと思います。さらに理論的な水準も高いと自負しており,筆者自身が,この本から,たくさんの論文のネタを見つけています。ぜひ,専門家から一般の方まで,広くお勧めできると思います。特に巻末には労働市場分析の際の基本的な概念や考え方がわかりやすく解説されていますから,初学者はここをまず読んでみるのがよいかもしれません。とにかく,1週間に1章を読み込むことで,約4カ月後には,労働問題のエキスパートになっていると思いますよ(どこかで使ったコピーですが)。
おまけですが,この本にはストーリーがついています。大卒予定の若者が内定取消を受けて,失意のなかアルバイトをしたり,請負で働いて過労による精神疾患を経験したりするなか,中途採用募集ではやっぱり若いことがものを言っていち早く採用されていく話,中堅社員の夫婦がそれぞれ正社員,パートとして働くなかで遭遇する恋と仕事の物語,不正には黙っていられない正義感あふれた中年サラリーマンがリストラされてどん底に落ちいていくが,最後はプチ幸福を味わうという話,能力のある若い女性がいきなり幹部に登用されるが,壁にぶつかって挫折をする話,そんな彼女を守るために,すべてを投げ打って戦う男の話など,その他にも,いろんな登場人物の話が絡み合いながら展開していきます。アモーレ系の話もたくさんあります。堅い話はイヤという人は,ストーリーだけでも結構,楽しめるのではないかと思います(もちろん,本文こそ,読んでもらいたいのですが)。